いのちを受け取る痛み。故ヘリンガー師のとの思い出。

2019年9月に93歳でこの世を去った

バート・ヘリンガー師。

wikipediaから写真を借りました。

 

私の生命観の骨格の一部である

ファミリー・コンステレーションという

セラピーを越えた領域に位置する手法を

現在の形に確立した偉大なる先生でした。

(そして彼の晩年は

また違う形の仕事に費やされていました。)

 

2008年に私がファミリーコンステレーションに

本格的に取り組み始めた時から

ヘリンガー師からの教えを間接的に受け取るようになり

私の人生は劇的に変化しました。

 

それはまさにドラマのようで、

安定より変化や成長を好む私にとって

とても意義深いものでした。

 

果たしてファミリーコンステレーションを知らなければ

生きた心地がしていたのだろうか。

と今でも思うほどに。

 

バート・ヘリンガー師から直接教えを受けたのは

2015年の秋~冬わずかな期間、東京とドイツでのことでした。

 

とても久しぶりに来日したヘリンガー夫妻による

3日間の東京開催ワークショップに参加した時、

バートに質問に答えてもらう機会に恵まれました。

 

私はまだ産婦人科医であることに

苦しみを感じていました。

 

それは

妊娠中絶を望んだり

授かった赤ちゃんを選別することを望んだり。

という希望を持っている

女性やカップルに奉仕することが

精神的に苦痛であり

年月をかけて色々な取り組みをしても

拭い去れない。

ということが主なことでした。

大勢の参加者がいる中

私はヘリンガー夫妻のいる壇上に招かれて

質問をする機会を得ました。

 

ある時、

小さなコンステレーションを立ててもらいました。

 

これは私にとって

最もパワフルなたましいの癒しになりましたので

こちらにバートとの思い出として記録します。

 

これは他者の生命に関わる全ての方にも

参考になることかと推察します。

そして、

バートがカトリック司祭であったことが

このコンステレーションに無関係ではないだろうことを

あらかじめ申し添えておきます。

 

ソフィー・ヘリンガー(バートの2番目の妻)がはじめに

私が過去に関わった妊娠中絶の人数を尋ねました。

 

実は、私は正確には覚えていません。

産婦人科医としての専門研修は約5年間ですが、

指導医のもと行った妊娠中絶の件数は

15件くらいだった。

それ以来、行っていない。

 

と答えました。

 

そこから

バートが舵を取って代わり、

コンステレーションを立てることを

私に提案しました。

 

もちろん、

私の答えはyes以外にありません。

 

ワークショップの参加者の中から

5名の人が

「私が妊娠中絶手術した胎児の代理人」

として選ばれ

「場」に配置されました。

 

次に

バートは私に向かって

5人の「私が妊娠中絶した胎児の代理人」が

立っている「場」に入るように

指示しました。

ちょうどこんな配置になりました。

 

私は目の前に

5名の代理人がいるのが見えました。

 

1名1名、違う人であり

それぞれが立ち方や表情で異なる状況を

表しているように見えました。

 

辛そう。

虚無感。

平常心。

 

あなたがコンステレーションを経験していなければ

想像しづらいかもしれませんが

そこに代理人の作為はあるようには見えません。

 

私のコンステレーションは

そのままヘリンガー夫妻と

100名の参加者とに見守られていました。

 

私はそのグループの真ん中で

自分の内側からのわずかな衝動や動きを感じられるよう

注意を払って立っていました。

 

その場で私の内面に起こっていたことは

以下のようなことでした。

 

私は彼らに近寄ってひれ伏したいのだろうか?

いや違う。

彼らに頭を下げたいのだろうか?

いや違う。

彼らに恐れを感じて退きたいのだろうか?

いや違う。

彼らに花を手向けたいのだろうか?

いや違う。

 

このような自問自答が

瞬時に展開していきました。

 

そして

ある到達点としての理解が

突然私の中に光のように現れました。

 

彼らのいのちは

私のためにあった。

ただそれだけだ。

 

その事実を今

私が全面的に受け容れる時なのだ。

 

ということでした。

 

その瞬間から

胸の奥の熱いたましいの宿る場所から

とめどもなく涙が溢れました。

 

それは

私のたましいが自ら負った痛みの涙でした。

 

胸の奥深くが張り裂けるように

涙が溢れて流れていくことは

痛みを感じることであると同時に

とても私自身が軽くなることでもありました。

 

そこでコンステレーションが閉じられました。

私は自席に戻って次のセッションが始まってからも

しばらく涙が止むことがありませんでした。

 

私たちのいのちは

他のいのちを受け取って生きています。

 

ヨガの行者など特別な人には

不食不眠で太陽光だけで生きている人もいるそうですが

普通は違います。

 

食べるものもそうでしょう。

いのちあるものをいただきます。

 

それに、ほとんどこの世界は誰かの働きでできていて

その上に立って暮らしているのです。

私たちはそれを受け取って生きているのです。

 

だから

自分だけは他に迷惑をかけないで

他から奪わないで生きられる。

 

と考える方が

そもそも傲慢なのだと思います。

 

私の場合

仕事として妊娠中絶手術に携わることは

もうやらないことですが、

それは血が苦手な人が

医者や看護師には向いていないことと同じようなことで

ものごとの良し悪しではないのです。

 

ただ、

私が20代後半〜30代前半にかけて

自分の職業を身につける目的で

関わったいのちを失わせる経験をしたことは

今の私の在り方生き方を強く支えている

ということが事実です。

 

10年以上の時を経て

バートヘリンガー師と経験した

この小さなコンステレーションを通して、

 

私自身は

「自分だけは潔白でいたい。」

という

子どもじみた傲慢さを

その瞬間手放すことができました。

 

その代わりに大人として

自分が職業を通じて

直接的に関わったいのちの喪失を

 

日々の生活の糧として

自分や家族の人生・いのちを養うために

私が受け取ってきたことを

 

生きること自体の責任や痛み

のようなものを

私のものとして受け容れることができた

大切な時でした。

 

だからこそ私たちは

自分以外の人や生命のために

働くことが叶うのですよね。

 

ついつい過去に学んだ大切なことを忘却して

同じ苦しみを繰り返してしまいますが、

 

また忘れたら思い出し

繰り返し

少しずつ進歩するものだと思います。

 

今一度、謙虚であれと

あの時たましいに刻まれた教えを

取り出して読んでいます。

 

偉大なる先生、

故バート・ヘリンガー師へ

敬愛を込めて。

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