ソウルバースセラピストで産婦人科医の
小林桜です。
ある60代後半の女性、洋子さん(仮名)の話です。
外陰部のなんともいえない不快感や痛みについて、
かれこれ1年くらいおつきあいしてきました。
また最近どうにも気になる、とのことで
久しぶりに受診されました。
内診台で気になる箇所を指差してもらうと
その部分は相変わらず見た目は
なんとも異常がないのです。
ですが、今回はそのすぐそばに
お産の時の傷跡、
おそらく会陰切開の瘢痕があることが
気になったのでした。
その部位に触れながら
「そばにお産の時の傷がありますね。。」
と私が聞くでもなくそう言うと、
洋子さんは堰を切ったように
何十年も前のお産の時の経験を語り出しました。
その内容は、
第2子のお産の時のこと。
産院で陣痛が来ていた時に
1人で耐えて待っている時間が多かったこと。
隣でお産する人の声や、
医師が「これは破れて縫えないな。。」
と言ったのが聞こえたりして、
一体自分は大丈夫なのか。
私、どうなっちゃうんだろう。。
と、とても不安になり、
死の恐怖を感じるくらい怖くなったこと。
そして、
ようやくお産した後も
死の恐怖や不安が付きまとうようになり、
これ以来、2人いる子どもに対しても
過剰に心配して子育てした気がする。。
また、夫との夫婦生活も
行為や妊娠が怖くて
受け容れることができなくなって。。
夫に対して非常に申し訳ない気持ちで
過ごして来たこと。
カーテンのある内診台越しに
洋子さんはそんな話を
一気にお話されて、
その間私は患部に触れ、
相槌を打ち
ただ話を聞いていました。
これまで何度か拝見してきたので
見落としていた、
ということかもしれないけど
あまりお産の古傷に注目することは
不思議なくらいありませんでした。
もしかしたら、
この日がこういう話をする
タイミングだったのかもしれないな。
と勝手に思ったりしつつ、
私は洋子さんにこうお声かけしました。
「もう大丈夫ですよ。。
もうお産もしないでいいですし、
もうお子さんたちもすっかり大きくなったし。
きっと立派なお子さんたちになられたんでしょう。
ね。?」
すると、
「・・・そうですね。。
もう孫たちまでいます。」
と洋子さんも言いました。
私は、会陰部の緊張をほぐすような
軽いマッサージをやってみせて、
ご自分でも家でやってみるように、
とお伝えしました。
診察が終わる時に
「私に話してくれたように、旦那さまにも
こんな風に思ってご自分を責めていた。
ということをお話されてみられると、
もしかして心が軽くなって
楽になられるんではないでしょうか。」
と、
私なりに拙い提案してみたのですが,
洋子さんのお答えは
私の想像を超えるものでした。
「はい。思い余り、
夫に対して離婚を申し出たことがあります。
申し訳なくて。。」
「・・そうだったんですか。
・・それで、どんなお答えがあったのですか。」
この辺りからは
医師としての医療行為の範囲を超えてしまい、
人対人の信頼関係のある中での話に
入って行ったと思います。
「夫は、
それは僕の責任でもあるんだから。
と言い、それ以来
夫は仕事にのめり込むようになっていきました。」
と、辛そうに教えてくれました。
妻が妊娠・出産で心と体に傷を負うこと。
それは
生命を授ける側の夫の行為にも
責任がある。
理論としては知っている「いのちの法則」ですが、
そんな関係性を目の当たりにしたのは
私にとっても実際には初めてで、
洋子さんご夫婦の絆の深さと愛とに
強く胸を打たれました。
洋子さんが退室されてから少しの間、
心に鋭く響く感覚をただ味わって
じっとしているより他ありませんでした。
このお仕事をさせていただいてると
いろんな方の人生やいのちの物語が
心の琴線に触れることがあります。
洋子さんのお産の時の経験は
もしかしたら
産科医療側のケアがもっとあれば
ここまで辛いものにはならなかったかも。
と思うと残念でなりませんが、
今回、
私が洋子さんの「外陰部の不快感」から
聞かせてもらったいのちの物語は
「女を大切にする男」は
この私の住んでいるこの世界にも
ちゃんとちゃんといるんだ。
という新しいメッセージ。
世間知らずの私に教えてくれる
切なくも愛が響くいい話でした。
それから、ちょっとマニアックな話かもしれませんが
こんな時にStaphysagriaとか
パッとホメオパシー療法など代替療法を提案できるような
診療スタイルを持てるようになりたい。
と強く感じました。
(※Staphiysagriaは飛燕草。このホメオパシー処方は
会陰切開の痛み、屈辱的な体験に対する抑えられた憤り、
などに使われるんです。すごくない?)
この日の外来は、
終わりがけにもまた
「女の子を大切にする男の子」が、
今度はカップルで現れました。
なんだか希望に満ちたメッセージが強化される
良き日でした。
お読みくださりありがとうございました。
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