ひさしぶりに手術室に入って思ったこと。

久しぶりに手術室に入り緊急帝王切開術に加わりました。

今日はその帰り道に思ったことをお話しします。

私は最近、かつての同僚が切り盛りしている産婦人科に週1回手伝いに行っています。

新幹線に乗って西の方まで!

一時的な人手不足をカバーするため助っ人業務です。

私にとってお産というのは待つものです。基本的にお産を待っていることが仕事。

私がその場に存在することに意義がある。という、お仕事です!

自己肯定感が上がりますね。だから行くのです。笑

 

今週は早朝に緊急帝王切開が必要な事例が発生しました。

常勤医を起こして呼び出し、手術の段取りを組み、助手として手術に入りました。

私が本当の意味で産婦人科医療の第一線で働いていたのはかれこれ10年くらい前で、

その後も時折機会はありましたが今回久しぶりの手術。

普段から手術的に手を動かしていないので手際は全くもって。。という感じなのですが、

それにもかかわらず私の意識のモードはスイッチが当たり前にオンになっている状態。

久しぶりなのに不思議なくらい懐かしさがない。むしろ当たり前感が強い。

その「当たり前感」が私にとって気づきのサインになりました。

「手術をする」ことは一般の人にはとても距離感があることだと思います。

医療者の読者もいると思いますが、仮にあなたが訓練を受けてない一般の人だとして、

「はい、どうぞお願いします。」と手術室に招かれて、

段取りが組まれたある患者さんの手術を行うことがあったとしたら、どうなるでしょうか。

やっぱり普通の精神状態ではいられないんじゃないかと思います。

私が医学生の時に手術室に実習に初めて入らせてもらった時に、

ここで働いている人たちの生活はなんと特殊なんだろう。

と思ったものです。

※特殊な仕事は何も医療だけではありませんよね。

世の中には今いろんな仕事がありますが、ささいなズレが直接的に生死を左右する仕事というのは他にも色々ありますよね。

もし良かったら頭の体操だと思ってどんな仕事がそうか考えてみてください。きっとあなたとあなたの家族のいのちと生活の基盤が見えてくるはず。

 

最近過去の写真を見返していたら、めずらしい手術中の写真が出てきた。医師4年目。

今の私は、基本的に手術のない生活を送っています。

お産もほぼなし。緊急呼び出しもありません。夜も電話で起こされることはありません。

好きな時に働いて、遊んで、家族や友達と会う時間もあって。

医者として働かない時間がたっぷりあって、私はもはや医者じゃないのではないか。

と思ったりすることもつい最近までありました。てゆーか今もまだちょっとだけある。笑

それが、今回のようにそうするのが当たり前の精神状態で手術に助手として加わって、

久しぶりながらも手を動かして術者をサポートできるわけです。

私はもともと切ったり貼ったりの外科的なことは好きな方です。

侵襲的な手術は可能な限り避ける方針ではいますが、

実際に手術に入るときは実はワクワクします。血がさわぐみたいな。笑

そして今振り返って感じられるのは、

手術室で動いているのは医師の手だけではないこと。

手術場には、患者さんや外で待っているご家族の期待に応え思いやるエネルギーが溢れていた。

そして新しく生まれてきた生命体を新しい仲間として歓迎する意識も備えていた。

つまり心も体も頭もフル稼働しているのです。有機的な医療チームとしてとても機能しているのです。

そして手術を受ける母の勇敢さは献身的で本能的な愛の行為です。

しかも産科専用に作られたこの病院に手術場には、過去の手術室で起きたこと、行われたことが、

場の記憶として積み重なっているのを感じます。

この頃は私は自分自身のことをぷらぷらしたとんでもない人だと思うこともあるけど、

今回久しぶりのこの機会に接して、

これが私のたましいのアイデンティティということだなあ。

これは私がよく知っている場所だなあ。

としみじみ思ったのです。

そう。「私はやっぱり医者なのだ。」と。

お役立ち記事を書いていこうと思っていましたが、また「自分探し」の記事になってしまいましたねー。笑笑

まあ、こういうことも「ソウルバース体験」ですから良かったら聞いてください。

もう少し話を続けます。

あなたの高校の同級生が、医学部に入って医者になる時、その道でなければ経験しないような関門をいくつも通ります。

自らの道の関門を通る時に、たましいは痛みも感じ成長もするのです。

それが私のいうソウルバース体験です。

例えば私の場合は

医学部で解剖学を学んだ時に一人のおばあさんのご遺体を5人がかりでバラバラにして細かく切り刻んだ経験もあります。

自分の未熟さ至らなさで人が死んでしまったこともあります。

また人工妊娠中絶という手術で生きようとして日々絶賛成長中のちいさき仲間を亡き者に握りつぶしたこともあります。

殺したということです。法的には違いますが、生物としては。

こういう経験のある者が、それがないと思っている人と分かり合えることはない。

そう思うくらい悲しみを内包して社会との分離感を強く感じていたこともあります。

医学部5年生。このころからグループを作って医師国家試験対策をするのが通例。だけど6年になって一人で勉強するようになった。

医者っていい仕事だ。ってようやく最近は思えるようになったけど、

私のたましいは自分自身を傷つけることと成長することの両方を同時に経験しながら

ギリギリの葛藤をかいくぐってここまできたと感じます。

知り合った人から、お医者さんに不満があるとの声を聞くこともあります。

医者は死ぬ気で働いてくれ。って言われたこともあります。

それを聞くといろんな意味で悲しさが湧いてきます。

それは残念なことだな。という悲しさもあります。

他の人のことは本当の意味ではわからないけど、

おそらく多くのお医者さんのたましいは、

それぞれその道でなければ経験しないようなことをくぐってきて、傷を負っている。

(戦士が戦場で国のために戦ってPTSDになるみたいなイメージ。)

それが上手に癒えて新しい力になる時と、

見えないところで痛みを抱えたままになっている時がある。

でもそれはなかなか知ってもらえてない。

私はそんな風に思い心の中でその距離の遠さに悲しくなる時があるのです。

そんな医者にかかるのは不満だという人の気持ちも理解できるし、

そんな風にあなたに不満を与えるような態度でしかいられないほど痛みを抱えたまま

日々働き続けるお医者さんたちのことも理解できるし、敬意も感じるのです。

医療はインフラの一つです。私たちの社会の暮らしの基盤です。

私は外来患者さんから話しやすいって喜ばれることがありますが、

誰もかれもが私のように現場を投げ出して休憩!ってぷらぷらしてしまったら、

きっと今の日本の医療は、お産事情は、大変なことになってしまいますよね。笑

どうか、あなたのお医者さんの痛みが癒えるように。と願ってくださいね。

って心の中で思っています。

なぜこんなことを言いたいかっていうと、

やっぱりこれからの新しい医療には、

もっと「分離」が少なくて、もっと統合された「愛」のエネルギーが必要不可欠だと思うからです。

提供する側も受け取る側も一緒に場を作り上げてゆくイメージです。

そして私は自分のスタイルで診療することでき、

私のスタイルが好みだという方たちにサービスを受け取ってもらえる。

そんな医療の場を作りたい。

それが私のたましいが癒え、利用する人のたましいの成長に貢献することになる。

早くやりたいな~

医者辞めたろ。っていう場所から展開して、最近はよくそう思うようになりました。

これも私のたましいの成長の証! 笑 相変わらず子どもですみません。

そう、「ソウルバース体験」です。

今日もお読みいただきありがとうございました。

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